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「クリエイティブとAI」に関して、トップクリエイターからコメントが到着。安彦良和さんインタビュー編

アニメ制作業界は、長年にわたり深刻な課題に直面しています。
過酷な労働環境、タイトなスケジュール、手作業に大きく依存する40年以上も変わらない制作プロセス、制作者の高齢化と後継者不足、さらには知的財産権保護への懸念から新技術の導入が遅れるなど、問題は山積しています。

双子アニメTikToker「ひなひま」アニメ化プロジェクトは、業界全体がアニメ制作の課題に真剣に向き合うきっかけとなることを目指しています。
そしてクリエイターとAIの向き合い方に対して、トップクリエイターである手塚眞さんと安彦良和さんへインタビューを行いました。

今回は安彦良和さんのインタビューを紹介いたします。
インタビュー全文は以下よりご覧いただけます。

安彦良和さんインタビュー ※一部】

アニメ業界の救世主なるか? AIの補助ツールとしての可能性

―アニメ業界の人手不足問題もあり、補助ツールとしてAIが使えないかと思っているのですが、その辺りいかがでしょうか?

【安彦】
AIを活用したテスト動画とかを観てみたりすると、言いたい事もあるっちゃあるんだけども…人手不足でね、クオリティが低いレベルで情けないものを作っている現状を踏まえると、AIが底上げしてくれるかもというのは十分期待できるんじゃないかね?

―例えばAIのツールをペンと紙と同じように使って、頭の中のイメージをアウトプットする手助けをしてくれるとなったら、それを使って何か作品を作ってみたいと思われますか?

【安彦】
いや、自分としてはそれを使ってみたいとは思わないけど…でも、アニメ制作としてはいろいろサポートしてもらうことはできるんじゃないかなと思うよね、今すぐにでも。
例えば中割なんかをやってくれるんであれば、どんどんやってもらえば良いと思う。
その間に作り手は芝居の勉強したりとかしてね。
アニメーションの基本は「流れ」だから。中割は機械的な動きだから、手伝ってっていう。

あとは漫画なら枠線引いたり、ベタを塗ったりね。
今はスクリーントーンも消えちゃって…僕はスクリーントーンが廃盤になるの辛かったんだけど…でも今、貼ってる人いないんじゃないの? 
昔はカケアミできないと漫画家になれないよって言われて、僕も「アレができないと漫画家でやっていけないから、アニメーターで食っていこう」って思ったところもある。でも今カケアミなんて誰もやらないでしょ?

そういった部分も含め、AIにお手伝いしてもらえるんじゃないの?
だから、むしろ遅いなって感じがするね、「まだそのレベルなの?」って。

安彦さんの考えるAIの「学習」について

―あと、安彦さんにお伺いしたいのですが、AIが批判される点として「学習」という点があります。ただ、アニメの現場でも行われている写真参考や、絵を勉強するための模写も同じく参考のものを「学習」したものではあるのですが、それは許されて、AIの学習が批判される理由は何だと思われますか?

【安彦】
AIの学習姿勢がどういったものかというのは判らないけど、でも「学習」でしょ?
パクリではなく「学習」という。

「学習」っていうのは好みがあるから、全部を吸収するっていう訳ではなく、「あ、ここのところを学ばせてもらおう」というような。
好きじゃないものは取り入れない、技術的に無理なものは取り入れないとかね。

「学習」自体は自然な事だし、基本だと思うけどね。

あとは、アニメの現場だと「影」をつけるなっていう話があるでしょ。色数が増えるからって。今はかなりシンプルでしょ?

― 一時期影を増やす流れがありましたが、今は大分減りました。

あとは撮影処理で載せてしまうことも増えてきていると思います。

【安彦】
「学習」して取り入れたんだけど、あえて捨てる、いらないとかね。
そういったこともチョイスできるのかなって。
なんでもかんでも取り入れるとうるさくなっちゃう。

―はい。AIを使ったアニメ制作だと「捨てる事」が重要になってきています。

放っておくとどんどん情報量が増えてしまうので…。

【安彦】
…なんか話を聞いていくと、(AIを活用することに)何の問題もない気がするね。

AIに頼みたいのは「アニメ制作の人手不足部分のサポート」

―今のAIというのは、良くも悪くもツール、技術という立ち位置のものかと思いますが、安彦先生が今AIに手伝ってほしい、サポートして欲しいということはありますでしょうか?

【安彦】
本業の漫画家の方では特にないんだけど…面倒くさいけど背景も描くしね。

ただアニメーションの場合は、人手が足りないなら中割とか手伝ってもらえたらいいのになぁとか、モブとか通行人とか、学園ドラマの教室のその他大勢とか、やってくれるなら頼めばって気がするけどね。

<プロフィール>
安彦良和(やすひこ よしかず)  漫画家、アニメ監督、イラストレーター。
1947年北海道生まれ。 TVアニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザイン、アニメーションディレクターとして注目を集める。
1989年公開の劇場アニメ「ヴイナス戦記」を最後にアニメ業界から身を引き、漫画家として活躍。
1990年「ナムジ―大國主―古事記巻之一」で第19回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。2000年「王道の狗」で第4回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。2012年「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」で第43回星雲賞(コミック部門)を受賞。
2015年には自身がマンガ原作者であるアニメ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」にて25年ぶりにアニメ業界に復帰し、総監督を務めた。